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 3藤袴(大島本)3 
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 7渋谷栄一注釈(ver.1-1-2)7 
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8 
 9  

藤袴


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10 
 11 [底本]
11 
 12財団法人古代学協会・古代学研究所編 角田文衛・室伏信助監修『大島本 源氏物語』第五巻 一九九六年 角川書店
12 
 13

13 
 14 [参考文献]
14 
 15池田亀鑑編著『源氏物語大成』第二巻「校異篇」一九五六年 中央公論社
15 
 16

16 
 17阿部秋生・秋山 虔・今井源衛・鈴木日出男校注・訳『古典セレクション 源氏物語』第八巻 一九九八年 小学館
17 
 18柳井 滋・室伏信助・大朝雄二・鈴木日出男・藤井貞和・今西祐一郎校注『新日本古典文学大系 源氏物語』第三巻 一九九五年 岩波書店
18 
 19阿部秋生・秋山 虔・今井源衛・鈴木日出男校注・訳『完訳日本の古典 源氏物語』第五巻 一九八五年 小学館
19 
 20石田穣二・清水好子校注『新潮日本古典集成 源氏物語』第四巻 一九七九年 新潮社
20 
 21阿部秋生・秋山 虔・今井源衛校注・訳『日本古典文学全集 源氏物語』第三巻 一九七二年 小学館
21 
 22玉上琢弥著『源氏物語評釈』第六巻 一九六六年 角川書店
22 
 23山岸徳平校注『日本古典文学大系 源氏物語』第三巻 一九六一年 岩波書店
23 
 24池田亀鑑校注『日本古典全書 源氏物語』第三巻 一九五〇年 朝日新聞社
24 
 25

25 
 26伊井春樹編『源氏物語引歌索引』一九七七年 笠間書院
26 
 27榎本正純篇著『源氏物語の草子地 諸注と研究』一九八二年 笠間書院
27 
 28

28 
 29第一章 玉鬘の物語 玉鬘と夕霧との新関係
29 
 30
30 
 31
  • 玉鬘、内侍出仕前の不安---尚侍の御宮仕へのことを、誰も誰も
  • 31 
     32
  • 夕霧、源氏の使者として玉鬘を訪問---薄き鈍色の御衣、なつかしきほどにやつれて
  • 32 
     33
  • 夕霧、玉鬘に言い寄る---そら消息をつきづきしくとり続けて
  • 33 
     34
  • 夕霧、玉鬘と和歌を詠み交す---かかるついでにとや思ひ寄りけむ
  • 34 
     35
  • 夕霧、源氏に復命---「なかなかにもうち出でてけるかな」と
  • 35 
     36
  • 源氏の考え方---「かたしや。わが心ひとつなる人の上にもあらぬを
  • 36 
     37
  • 玉鬘の出仕を十月と決定---「うちうちにも、やむごとなきこれかれ
  • 37 
     3838 
     39第二章 玉鬘の物語 玉鬘と柏木との新関係
    39 
     40
    40 
     41
  • 柏木、内大臣の使者として玉鬘を訪問---まことの御はらからの君達は、え寄り来ず
  • 41 
     42
  • 柏木、玉鬘と和歌を詠み交す---「参りたまはむほどの案内、詳しきさまもえ聞かぬを
  • 42 
     4343 
     44第三章 玉鬘の物語 玉鬘と鬚黒大将
    44 
     45
    45 
     46
  • 鬚黒大将、熱心に言い寄る---大将は、この中将は同じ右の次将なれば
  • 46 
     47
  • 九月、多数の恋文が集まる---九月にもなりぬ。初霜むすぼほれ、艶なる朝に
  • 47 
     4848 
     49

    49 
     50 

    第一章 玉鬘の物語 玉鬘と夕霧との新関係

    50 
     51 [第一段 玉鬘、内侍出仕前の不安]
    51 
     52【尚侍の御宮仕へのことを】−源氏三十七歳の八月。玉鬘の尚侍出仕の話題から始まる。
    52 
     53【誰れも誰れもそそのかしたまふも】−源氏や内大臣らが。
    53 
     54【いかならむ】−以下「ありぬべき」まで玉鬘の心中。「を」接続助詞。本来の感動詞のニュアンスも残していよう。また格助詞としても目的格の機能もないではない。しかし引用の格助詞「と」がないので、下に続く構文。心中文が地の文に流れる。『集成』は「以下「とかくにつけて、やすからぬことありぬべきを」まで、玉鬘の心中を叙し、自然に地の文になって、「ものおぼし知るまじきほどにしあらねば」に続く形」。『完訳』は「以下、玉鬘の心内。直接話法がしだいに間接話法にうつる語り口」と注す。
    54 
     55【親と思ひきこゆる人の御心だにうちとくまじき世なりければ】−『完訳』は「養父源氏の懸想に悩むこと。「世」は源氏との仲をさすとともに、世間一般を思う文脈へと続く」と注す。
    55 
     56【心よりほかに便なきこともあらば】−帝から寵愛を受けること。
    56 
     57【ただならず思ひ言ひいかで人笑へなるさまに見聞きなさむと】−『集成』は「尚侍として入内する玉鬘の幸福を妬み、中宮方や弘徽殿方との軋轢で、その挫折を願う人々も多い」。『完訳』は「源氏とただの仲であるまいと」と注す。
    57 
     58【うけひたまふ人びとも多く】−『完訳』は「敬語の使用から、源氏の妻妾たちか」と注す。
    58 
     59【もの思し知るまじきほどにしあらねば】−玉鬘二十三歳。
    59 
     60【さりとて】−以下「もて騒がるべきみなめり」まで、玉鬘の心中文。
    60 
     61【いかなるついでにかは】−「ありはつべき」に係る。反語表現。
    61 
     62【なほとてもかくても】−尚侍として出仕してもまたこのまま六条院にいても、の意。
    62 
     63【御もてなしを取り加へつつ】−「つつ」接続助詞、同じ動作の反復の意。
    63 
     64【何ごとをかは】−「聞こえ分きたまはむ」に係る。反語表現。
    64 
     65

    65 
     66 [第二段 夕霧、源氏の使者として玉鬘を訪問]
    66 
     67【薄き鈍色の御衣なつかしきほどにやつれて】−大宮の服喪のため。後の「藤裏葉」巻に、三月二十日に薨去したことが語られている。
    67 
     68【御前なる人びと】−玉鬘の御前に伺候する女房たち。
    68 
     69【宰相中将】−夕霧、参議兼近衛中将。
    69 
     70【同じ色の今すこしこまやかなる直衣姿にて】−『完訳』は「母方の祖母の死は服喪三か月。その期間が過ぎたのに父方の玉鬘(服喪期間五か月)より濃い喪服を着用」。『集成』は「夕霧には外祖母の喪であるが、最近まで親しく養育されていたので、普通よりも濃い色を着ている」と注す。
    70 
     71【もて離れて疎々しきさまには】−主語は玉鬘。
    71 
     72【殿の御消息にて】−源氏の御消息の使いとして、の意。
    72 
     73【内裏より仰せ言あるさま】−主上から尚侍として出仕せよという趣旨。
    73 
     74【かの野分の朝の御朝顔は】−「野分」巻に語られていた源氏と玉鬘が一緒にいた場面(第二章四段)。「朝顔」は歌語。
    74 
     75【この宮仕ひを】−以下「来なむかし」まで、夕霧の心中。「この」は玉鬘の、の意。
    75 
     76【おほかたにしも思し放たじ】−主語は源氏。
    76 
     77【さばかり見所ある御あはひどもにて】−あれほど素晴らしい六条院の御夫人方との間柄ながら、の意。
    77 
     78【をかしきさまなることのわづらはしき】−『完訳』は「玉鬘の魅力に起因する厄介な事態。六条院の破綻を想像」と注す。
    78 
    c179【人に聞かすまじとはべりることを】−以下「いかがはべるべき」まで、夕霧の詞。「人に聞かすまじ」は源氏の言。「まじ」禁止の意。<BR>79【人に聞かすまじとはべりることを】−以下「いかがはべるべき」まで、夕霧の詞。「人に聞かすまじ」は源氏の言。「まじ」禁止の意。<BR>
     80【そばみあへり】−『集成』は「遠慮の体」。『完訳』は「顔をそむけ、声を聞かぬ挙措」と注す。
    80 
     81

    81 
     82 [第三段 夕霧、玉鬘に言い寄る]
    82 
     83【主上の御けしきのただならぬ筋をさる御心したまへなどやうの筋なり】−『集成』は「人払いして話した作りごとの内容を説明する」。語り手の説明的叙述。
    83 
     84【御服もこの月には】−以下「思ひたまふる」まで、夕霧の詞。父方の祖母の服喪は五か月。大宮の薨去の三月二十日からは五か月経たことになる。
    84 
     85【たぐひたまはむも】−以下「よくはべらめ」まで、玉鬘の返事。
    85 
     86【この御服なんどの詳しきさまを】−『集成』は「玉鬘が大宮の喪に服している詳しい事情を」と注す。
    86 
     87【人にあまねく知らせじとおもむけたまへる】−『集成』は「玉鬘の素姓は、今しばらく秘密にしようというのが、源氏と内大臣の約束でもあった」と注す。
    87 
     88【漏らさじとつつませたまふらむこそ】−以下「思ひたまへ分くまじかりけれ」まで、夕霧の詞。
    88 
     89【いともの憂くはべるものを】−「を」間投助詞、詠嘆の意。
    89 
     90【心得がたきにこそはべれ】−夕霧は玉鬘が内大臣の実娘であることを知ってもなぜ六条院に迎えられたか分からない。
    90 
     91【御あらはし衣の色】−同血縁であることを表す喪服の色、の意。
    91 
     92【何ごとも思ひ分かぬ心には】−以下「あはれなるわざにはべりけれ」まで、玉鬘の詞。
    92 
     93【まして】−あなた以上に、の意。
    93 
     94

    94 
     95 [第四段 夕霧、玉鬘と和歌を詠み交す]
    95 
     96【かかるついでにとや思ひ寄りけむ】−語り手の推測。
    96 
     97【これも御覧ずべきゆゑはありけり】−夕霧の詞。
    97 
    c198【うつたへに思寄らで】−『集成』は「〔夕霧の真意に〕別に気づきもせずに」。『完訳』は「まるでそれと気づかずに」と訳す。「うつたへに」副詞、否定表現と呼応して、決して、全然--ない、の意。<BR>98【うつたへに思寄らで】−『集成』は「〔夕霧の真意に〕別に気づきもせずに」。『完訳』は「まるでそれと気づかずに」と訳す。「うつたへに」副詞、否定表現と呼応して、決して、全然--ない、の意。<BR>
     99【同じ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかことばかりも】−夕霧から玉鬘への贈歌。「あはれはかけよ」と訴える。完訳「「藤袴」は、「藤衣」(喪服)の意をひびかすとともに、ゆかりの色(藤−薄紫)の意を表し、縁者同士の交誼をと訴えた」と注す。
    99 
     100【道の果てなるとかや】−以下、「うたてなりぬれと」まで、玉鬘の心中。引歌「東路の道の果てなる常陸帯のかごとばかりも逢ひ見てしがな」(古今六帖五、帯、三三六〇)による。
    100 
     101【尋ぬるにはるけき野辺の露ならば薄紫やかことならまし】−玉鬘の返歌。「野」「露」「かこと」の語句を用い、「藤袴」はその色「薄紫」を用いて、「かことならまし」と切り返す。『完訳』は「反実仮想の構文で、実際には二人は無関係で「かごと」は「露」ほども当らぬ、と切り返した歌」と注す。「武蔵野は袖ひつばかりわけしかど若紫は尋ねわびにき」(後撰集雑二、一一七七、読人しらず)を踏まえる。
    101 
    c1102【かやうに聞こゆるより深きゆゑはいかが】−歌に続けた玉鬘の詞。「いかが」の下に「あらむ」などの語句が省略。<BR>102【かやうに聞こゆるより深きゆゑはいかが】−歌に続けた玉鬘の詞。「いかが」の下に「あらむ」などの語句が省略。<BR>
     103【浅きも深きも】−以下「思しをけよ」まで、夕霧の詞。
    103 
     104【いとかたじけなき筋を】−尚侍としての出仕をさす。
    104 
     105【今はた同じと】−引歌「わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ」(後撰集恋五、九六〇、元良親王)。
    105 
     106【思ひたまへわびてなむ】−下に「言ひにける」などの語句が省略。
    106 
     107【かつは思ひたまへ知られけれ】−『集成』は「内心よく分りもしました」。『完訳』は「同時によく得心せずにいられません」と訳す。
    107 
     108【御あたり離るまじき頼みに】−実の姉弟の関係を期待して、の意。
    108 
    c1109【かたはらいたけれ書かぬなり】−『集成』は「省筆の弁を兼ねた草子地」。『完訳』は「語り手の省筆の言辞。夕霧のしたたかな懸想ぶりを思わせる」と注す。<BR>109【かたはらいたけれ書かぬなり】−『集成』は「省筆の弁を兼ねた草子地」。『完訳』は「語り手の省筆の言辞。夕霧のしたたかな懸想ぶりを思わせる」と注す。<BR>
     110【尚侍の君】−玉鬘。既に尚侍に就任したことを示す。
    110 
     111【心憂き御けしきかな】−以下「はべらむものを」まで、夕霧の詞。
    111 
     112【あやしくなやましくなむ】−玉鬘の詞。
    112 
     113

    113 
     114 [第五段 夕霧、源氏に復命]
    114 
     115【なかなかにもうち出でてけるかな】−夕霧の心中。
    115 
     116【かの今すこし】−以下自然と地の文が夕霧の心中文となっていく。「野分」巻(第一章二段)の紫の上の垣間見をさす。
    116 
     117【この宮仕へを】−以下「かくものせし」まで、源氏の詞。
    117 
     118【宮などの練じたまへる人にて】−「宮」は蛍兵部卿宮。「練じ」は、手慣れている、意。
    118 
     119【このことも】−宮仕えのこと。
    119 
     120【さても人ざまは】−以下「いとほしくなむ聞きたまふる」まで、夕霧の詞。
    120 
     121【宮は】−蛍兵部卿宮。
    121 
     122【さる筋の御宮仕へ】−女御としての入内をさす。そうではない尚侍としての出仕とはいえ、の意。
    122 
     123【さる御仲らひにては】−親しい兄弟の仲としては。
    123 
     124

    124 
     125 [第六段 源氏の考え方]
    125 
     126【かたしや】−以下「人めかいたまふなめり」まで、源氏の詞。
    126 
     127【恨むなれ】−「なれ」伝聞推定の助動詞。
    127 
     128【かかることの心苦しさを】−『集成』は「「かかること」は玉鬘が父に知られず零落していたことをさす」。『完訳』は「玉鬘の実父に顧みられぬ不幸」と注す。
    128 
     129【あやなき人の恨み負ふ】−実の親でもないのに、という意が含まれている。
    129 
     130【かの母君の】−夕顔をさす。以下、玉鬘を引き取った事情を夕霧に説明する。
    130 
     131【あはれに言ひおきしことの忘れざりしかば】−夕顔が遺言したという。これは作り事である。
    131 
     132【かの大臣はた聞き入れたまふべくもあらずと愁へしに】−内大臣が顧みてくれない、と泣きついてきたために。「愁へ」の主語は玉鬘。これも作り事。
    132 
     133【人柄は】−以下「心には違ふまじ」まで、夕霧の詞。
    133 
     134【宮の御人にて】−蛍兵部卿宮の北の方として、の意。
    134 
     135【過ちすまじくなどして】−『集成』は「むやみに嫉妬をして波風を立てたりしないだろう」。『完訳』は「踏みはずすことなどもあるまいから」と訳す。
    135 
     136【主上の常に願はせたまふ御心には違ふまじ】−「行幸」巻(第二章三段)に適任の尚侍がいないことが語られていた。
    136 
     137【年ごろかくて】−以下「いらへける」まで、夕霧の詞。
    137 
     138【ひがざまにこそ人は申すなれ】−「なれ」伝聞推定の助動詞。『完訳』は「源氏が玉鬘を愛人扱いするという噂」と注す。
    138 
     139【かたがたいと似げなきことかな】−以下「あるまじきことなり」まで、源氏の詞。
    139 
     140【御心許してかくなむと思されむさまにぞ従ふべき】−『完訳』は「実の父親が得心なさって、こうとお考えになるご意向に従わねばなるまい」と注す。
    140 
     141【女は三に従ふものにこそあなれ】−『集成』は「「婦人に三従の義あり。専用の道無し。故に未だ嫁せざれば父に従ひ、既に嫁しては夫に従ひ、夫死しては子に従ふ」(『儀礼』喪服伝)」。『完訳』は「女の三従の徳。未婚女性の父親に従うべき徳目で、論旨を強調」と注す。
    141 
     142【ついでを違へて】−『集成』は「玉鬘は、実父の内大臣の意に従うべきである」。『完訳』は「順序を取り違えて(実父を無視して)私の思うままにするとは」と注す。
    142 
     143

    143 
     144 [第七段 玉鬘の出仕を十月と決定]
    144 
     145【うちうちにも】−以下「語り申しはべりしなり」まで、夕霧の詞。『集成』は「夕霧の執拗な反論」と注す。
    145 
    c1146【やむごとなきこれかれ年ごろを経てものしたまへ】−『集成』は「以下「いとかしこくかどあることなり」まで内大臣の言葉」と注す。六条院のご夫人方をさす。<BR>146【やむごとなきこれかれ年ごろを経てものしたまへ】−『集成』は「以下「いとかしこくかどあることなり」まで内大臣の言葉」と注す。六条院のご夫人方をさす。<BR>
     147【その筋の人数には】−妻妾の一人、の意。
    147 
     148【おほぞうの宮仕への筋に領ぜむと】−『集成』は「通り一遍の宮仕えといったことをさせて(后妃としてではなく、尚侍という公職につけておいて)、わが物にしておこうと考えられたのは」。『完訳』は「源氏は玉鬘を表向きは尚侍にして、その実、愛人関係を保とうと。尚侍は、后妃でなく、夫や愛人がいてもかまわない」と注す。
    148 
     149【よろこび申されけると】−主語は内大臣。皮肉な言い方である。
    149 
     150【げにさは思ひたまふらむかし】−源氏の心中。
    150 
     151【いとほしくて】−『集成』は「お困りになって」。『完訳』は「気の毒にもなって」と訳す。
    151 
     152【いとまがまがしき筋にも】−以下「思ひ隈なしや」まで、源氏の詞。『集成』は「ずいぶんひねくれたふうにお取りになったのだね」。『完訳』は「じつに忌まわしいことを邪推なさったものだね」と訳す。
    152 
     153【思ひ隈なしや】−『集成』は「ぶしつけな考えだね」。『完訳』は「考えの浅いお人だね」と訳す。『河海抄』は「いづかたに立ち隠れつつ見よとてか思ひぐまなく人のなりゆく」(後撰集恋三、七四八、藤原後蔭朝臣)を引歌として指摘。
    153 
     154【御けしきはけざやかなれど】−源氏の態度。『完訳』は「源氏の様子から、人々の邪推の当るまいことが明瞭だが」と訳す。
    154 
     155【さりやかく】−以下「知らせたてまつらむ」まで、源氏の心中。
    155 
    c1156【案に落ることもあらましかば】−「あらましかば--ねぢけたらまし」反実仮想の構文。<BR>156【案に落ることもあらましかば】−「あらましかば--ねぢけたらまし」反実仮想の構文。<BR>
     157【げに宮仕への筋にて】−以下「思ひたまひけるかな」まで、源氏の心中。
    157 
     158【かしこくも思ひ寄りたまひけるかな】−主語は内大臣。
    158 
     159【月立たばなほ参りたまはむこと忌あるべし】−源氏の詞。現在八月。来月は季の末で結婚を忌む風習があった。『集成』は「尚侍は一般職であるが、帝寵を受けることがあるので、こういう」と注す。
    159 
    c1160【吉野の滝を堰かむよりも難き】−以下「いとわりなし」まで、女房たちの返事。「手をさへて吉野の滝はせきつとも人の心をいかが頼まむ」(古今六帖四、二二三三、女をはなれてよめる)。<BR>160【吉野の滝を堰かむよりも難き】−以下「いとわりなし」まで、女房たちの返事。「手をさへて吉野の滝はせきつとも人の心をいかが頼まむ」(古今六帖四、二二三三、女をはなれてよめる)。<BR>
     161【中将も】−夕霧。
    161 
     162【いかに思すらむ】−夕霧の心中。主語は玉鬘。
    162 
     163【おほかたの御後見を思ひあつかひたるさまにて】−『完訳』は「親切心からの世話。意中を訴えた反省から、雑事に奔走」と注す。
    163 
     164【うち出でては】−夕霧の恋慕の意中をさす。
    164 
     165

    165 
     166 

    第二章 玉鬘の物語 玉鬘と柏木との新関係

    166 
     167 [第一段 柏木、内大臣の使者として玉鬘を訪問]
    167 
     168【うちつけなりける御心かな】−女房たちの噂。
    168 
     169【人びとはをかしがるに】−『完訳』は「女房たちも真相を知っているが、柏木を急な変りようだと笑う」と注す。「に」格助詞、時間を表す。
    169 
     170【殿の御使にておはしたり】−内大臣の使者として柏木が来た。
    170 
     171【宰相の君して】−玉鬘付きの女房。「蛍」巻にも登場。
    171 
    c1172【なにがしを選びて】−以下「思ひたまへける」まで、柏木の詞。<BR>172【なにがしを選びて】−以下「思ひたまへける」まで、柏木の詞。<BR>
     173【いかが聞こえさすべからむ】−「いかが--べからむ」反語表現。申し上げるすべがない。
    173 
     174【げに年ごろの】−以下「心地なむしはべりける」まで、玉鬘の詞。
    174 
     175【聞こえ出だしたまへり】−御簾の内側から女房の宰相の君を介して、というニュアンス。
    175 
     176【悩ましく】−以下「心地なかりけり」まで、柏木の詞。
    176 
     177【よしよしげに聞こえさするも心地なかりけり】−『集成』は「私を嫌っていらっしゃるのに、と暗に恨む気持」と注す。
    177 
     178

    178 
     179 [第二段 柏木、玉鬘と和歌を詠み交す]
    179 
     180【参りたまはむほどの】−以下「思したる」まで、柏木の詞。
    180 
     181【え聞かぬを】−主語は内大臣。『完訳』は「内大臣は口出しできないので」と注す。
    181 
     182【なかなかいぶせく思したる】−『完訳』は「内大臣が。間接話法で結ぶ」と注す。
    182 
    c2-1183-184【いでやをこがましきことも】−以下「めづらしき世なりかし」まで、柏木の詞。<BR>《改行》
    をこがましきこともえぞ聞こえさせぬや】−「をこがましきこと」は懸想文をさす。『完訳』は「かつての懸想を愚かな体験とし、ばつの悪さを先取りして言う」と注す。「や」間投助詞、詠嘆の意。<BR>
    183【いでやをこがましきこともえぞ聞こえさせぬや】−以下「めづらしき世なりかし」まで、柏木の詞。<BR>をこがましきこと」は懸想文をさす。『完訳』は「かつての懸想を愚かな体験とし、ばつの悪さを先取りして言う」と注す。<BR>「や」間投助詞、詠嘆の意。<BR>
     185【いづ方につけても】−懸想人としてまた弟として、の意。
    184 
     186【御覧じ過ぐすべくやはありける】−主語は玉鬘。「やは」反語表現。
    185 
     187【北面だつ方に召し入れて】−「南表」に対して「北面」は奥向の部屋、私的な部屋。正客扱いに対しての不満。
    186 
     188【君達こそめざましくも思し召さめ】−「君達」は、二人称。あなた方、の意。「こそ--めさめ」係結び。逆接用法の挿入句。
    187 
     189【下仕へなどやうの人びととだにうち語らはばや】−『集成』は「内輪の者として気を許した付合いをさせてほしい、と言う」と注す。
    188 
     190【かかるやうはあらじかし】−玉鬘の柏木に対する扱いをさす。
    189 
     191【かくなむと聞こゆ】−主語は取り次ぎの宰相の君。
    190 
     192【げに人聞きを】−以下「こと多くなむ」まで、玉鬘の詞。
    191 
     193【うちつけなるやうにやと】−急に親しい態度になった、の意。
    192 
     194【年ごろの埋れいたさをも】−『集成』は「源氏のもとにいるので、相変わらず控えめにしているという弁解」と注す。
    193 
     195【いとなかなかなること多くなむ】−「なかなかなること」とは、辛いことの意。係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略。
    194 
    c4196-199【妹背山深き道をばたどらずて緒絶の橋に踏み迷ひける】−柏木から玉鬘への贈歌。「妹背山」は大和の歌枕。「緒絶の橋」は陸奥の歌枕。「妹背」に姉弟の意。「絶え」に難渋する意をこめ、「踏み」に「文」を掛ける。『完訳』は「遠隔の歌枕が、稀有な体験のとまどいを表象」と注す。<BR>《改行》
    【いづ方のゆゑとなむ】−以下「かくのみもはべらじ」まで、宰相の君の詞。「いづかた」は柏木の「いづ方につけても」の言葉を受けて返した言い方。《改行》
    おほわさめりし(九二七D)−「おぼしわく」の主語は玉鬘、推量の助動詞「めり」の主体は宰相の君。「し」過去の助動詞、連体形、「なむ」の係結び。<BR>《改行》
    【え聞こえたまはぬになむ】−主語は玉鬘。係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略。<BR>
    195-198【妹背山深き道をば尋ねずて緒絶の橋に踏み迷ひける】−柏木から玉鬘への贈歌。「妹背山」は大和の歌枕。「緒絶の橋」は陸奥の歌枕。「妹背」に姉弟の意。「絶え」に難渋する意をこめ、「踏み」に「文」を掛ける。『完訳』は「遠隔の歌枕が、稀有な体験のとまどいを表象」と注す。<BR>《改行》
    【いづ方のゆゑとなむ】−以下「かくのみもはべらじ」まで、宰相の君の詞。「いづかた」は柏木の「いづ方につけても」の言葉を受けて返した言い方。<BR>《改行》
    【え思分かざめりし−「おぼしわく」の主語は玉鬘、推量の助動詞「めり」の主体は宰相の君。「し」過去の助動詞、連体形、「なむ」の係結び。<BR>《改行》
    【え聞こえさせたまはぬになむ】−主語は玉鬘。係助詞「なむ」の下に「はべる」などの語句が省略。<BR>
     200【よし長居しはべらむも】−以下「かことをも」まで、柏木の詞。
    199 
     201【宰相中将】−夕霧をさす。
    200 
     202【いかでかかる御仲らひなりけむ】−若い女房たちの詞。
    201 
     203

    202 
     204 

    第三章 玉鬘の物語 玉鬘と鬚黒大将

    203 
     205 [第一段 鬚黒大将、熱心に言い寄る]
    204 
    c1206【大将はこの中将同じ右の次将なれば】−鬚黒大将は柏木が同じ右近衛府の次官なので、の意。<BR>205【大将はこの中将同じ右の次将なれば】−鬚黒大将は柏木が同じ右近衛府の次官なので、の意。<BR>
     207【などかはあらむと思しながら】−主語は内大臣。
    206 
     208【かの大臣の】−以下「あることにこそ」まで、内大臣の心中。「かの大臣」は源氏をさす。
    207 
     209【いかがは聞こえ返すべからむ】−「いかがは--べからむ」反語表現。
    208 
     210【さるやうあることにこそ】−『集成』は「玉鬘を源氏のものにしておきたいのだろうと、内大臣は邪推している」と注す。
    209 
     211【この大将は春宮の女御の御はらからにぞおはしける】−鬚黒右大将は、朱雀院の承香殿女御で東宮の母女御と姉弟。
    210 
     212【大臣たちをおきたてまつりてさしつぎの御おぼえいとやむごとなき君なり】−源氏太政大臣、内大臣に次ぐ第三の実力者。
    211 
     213【北の方は紫の上の御姉ぞかし式部卿宮の御大君よ】−式部卿宮の大君、紫の上の異母姉。「よ」間投助詞、呼び掛け。読者を意識した語り手の口吻。
    212 
     214【人柄やいかがおはしけむ】−『完訳』は「性格上の以上があるらしいとする、語り手の推測」と注す。
    213 
     215【いかで背きなむ】−鬚黒の心中。
    214 
     216【その筋に】−鬚黒の北の方が紫の上の異母姉という関係をさす。
    215 
     217【似げなくいとほしからむ】−源氏の心中。『完訳』は「不似合いだし、また姫君がおかわいそうなことになる」と訳す。
    216 
     218【かの大臣も】−以下「思いたなり」まで、鬚黒の心中。「かの大臣」は内大臣をさす。
    217 
     219【女は】−『集成』は「「女」とあるのは、結婚の相手として述べるところから出た言葉」と注す。
    218 
     220【ただ大殿の】−以下「違はずは」まで、鬚黒の詞。
    219 
     221【この弁の御許にも】−玉鬘付きの女房。鬚黒との手引をする。『集成』は「「この」は、かねてから仲立ちであることを自明とした言い方」と注す。
    220 
     222

    221 
     223 [第二段 九月、多数の恋文が集まる]
    222 
     224【九月にもなりぬ初霜むすぼほれ艶なる朝に】−晩秋九月となり、尚侍としての出仕を来月に控えた、ある初霜の朝、という設定。
    223 
     225【御後見どもの】−玉鬘のお世話役の女房たち。恋文の仲立ちをもしている。
    224 
     226【なほ頼み来しも】−以下「ほどぞはかなき」まで、鬚黒の手紙文。
    225 
     227【数ならば厭ひもせまし長月に命をかくるほどぞはかなき】−鬚黒から玉鬘への贈歌。「長月に命を懸くる」とは、九月が帝への出仕や結婚を忌む月で、それを当てにしているので、という意。『完訳』は「「--ば--まし」で、人並ならぬ恋の思いを裏返しに表現。下句は、九月だけを頼みとして生命をかける意。切実な心情語による表現で、兵部卿宮の歌とは対照的」と注す。
    226 
     228【いとよく聞きたまふなめり】−「なめり」の主体は語り手。語り手の批評と推量。
    227 
    c1229【いかひなき世は】−以下「ありぬべくなむ」まで、蛍兵部卿宮の手紙文。<BR>228【いかひなき世は】−以下「ありぬべくなむ」まで、蛍兵部卿宮の手紙文。<BR>
     230【朝日さす光を見ても玉笹の葉分けの霜を消たずもあらなむ】−蛍宮から玉鬘への贈歌。主旨「消たずもあらなむ」。「なむ」願望の助詞。私を忘れないでほしい。「朝日さす光」を帝の恩寵に、「玉笹」を玉鬘に、「霜」を自分自身に喩える。朝日を受ける玉笹(帝の恩寵を受ける玉鬘)と朝日に消えようとすえる霜(自分)を対照的に歌う。「玉笹の葉分に置ける白露の今幾世経む我ならなくに」(古今六帖六、笹、三九五〇)を踏まえる。
    229 
     231【思しだに知らば】−以下「ありぬべくなむ」まで、歌に添えた言葉。
    230 
     232【うちあひたるや】−「や」間投助詞、語り手の詠嘆。
    231 
     233【式部卿宮の左兵衛督は殿の上の御はらからぞかし】−式部卿宮の子息。源氏の北の方紫の上の異母兄弟。初出の人。
    232 
     234【親しく参りなどしたまふ君なれば】−六条院に親しく出入りしている意。
    233 
     235【忘れなむと思ふもものの悲しきをいかさまにしていかさまにせむ】−「忘るれどかく忘るれど忘られずいかさまにしていかさまにせむ」(義孝集、一九)。『完訳』は「下句の反復に、無力な自分にいらだつ気持がこもる」と注す。
    234 
     236【さまざまなるを】−それぞれに素晴らしいの意。
    235 
     237【思し絶えぬべかめるこそさうざうしけれ】−女房たちの詞。『集成』は「(こうしたすばらしい方々が、出仕の暁には)皆すっかり諦めておしまいになるだろうと思うと、さびしくなりますね」と訳す。
    236 
    c1238【いかが思しけむ】−『完訳』は「語り手の言辞。玉鬘があえて宮にだけ返事をする意外さをいう」と注す。<BR>237【いかが思すらむ】−『完訳』は「語り手の言辞。玉鬘があえて宮にだけ返事をする意外さをいう」と注す。<BR>
     239【心もて光に向かふ葵だに朝おく霜をおのれやは消つ】−玉鬘から蛍宮への返歌。「朝」「光」「霜」「消つ」の語句をそのまま。「玉笹」を「葵」に置き換えて、自分を「葵」に、宮を「霜」に喩え、「己やは消つ」(反語表現。どうして私が消したりしましょうか)と切り返す。
    238 
     240【いとめづらしと見たまふに】−主語は蛍宮。『完訳』は「宮への玉鬘の返歌としては、これまで語られてきたかぎり最初」と注す。
    239 
     241【つゆばかりなれど】−「つゆ(露)」は歌中の「霜」の縁で用いられた修辞。
    240 
    c1242【女の御心ばへはこの君をなむ本にすべき】−源氏や内大臣の詞。「この君」は玉鬘をさす。『完訳』は「玉鬘への讃辞である。多くの懸想人に最後まで慕われながら、源氏と内大臣の円満裡に出仕する玉鬘を讃美」と注す。<BR>241【女の御心ばへはこの君をなむ本にすべき】−源氏や内大臣の詞。「この君」は玉鬘をさす。『完訳』は「玉鬘への讃辞である。多くの懸想人に最後まで慕われながら、源氏と内大臣の円満裡に出仕する玉鬘を讃美」と注す。<BR>
     243【とや】−『完訳』は「伝聞形式によって語り収める」と注す。
    242 
     244

    243 
     245源氏物語の世界ヘ
    244 
     246本文
    245 
     247ローマ字版
    246 
     248現代語訳
    247 
     249大島本
    248 
     250自筆本奥入
    249 
     251250 
     252
    251 
     253252